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ナガノチサト個展『きょうのできごと』


 

ナガノチサト個展『きょうのできごと』
2020年7月18日(土)~8月3日(月)

 

忘れてしまえなかったあの日々は
深く重なる層になり
強くしなやかな大地が育つ
降り注がれている光に気づくほど
わたしは豊かな森になる

重なって 離れて また重なって
いくつもの季節を越えて咲いた花々を
小さな声で届けていきたい
よく晴れた日に思った きょうのできごと

ナガノチサト
雑誌の挿絵や装画、WEB、パッケージやフライヤー、アパレルブランドとのコラボ商品のデザインなどでイラストを展開。
近年では、商業施設のイメージビジュアルなど幅広く活動中。
HP:www.von3.com
Instagram:@chisato_nagano


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【展示の様子】

ON READING GALLERYでは2018年に続き2回目。
届いて絵をほどきながら、思わず声が出てしまいました。緻密で繊細、でも同時に力強さを兼ね備えた作品は、2年前と比べても明らかにパワーアップしています。

すべて、ゲルボールペンで一本一本引かれた線の集積で描かれています。その途方もない制作時間を思って、つらくならないの?と(愚かな)質問をしてしまったところ、

「やっぱりときどき意識飛んでるときはありますけど(笑)、背景の重ねている線も、人物や植物の輪郭の線も、同じように絵を構成している線だと思っています。時間はかかっても、線を描いている時間は幸せなものでした。」

とお話してくださいました。

今回展示している作品はすべて、この数か月の間、まさにコロナ禍で描き下ろされた作品です。以前から、ふと耳にした言葉や、見かけた人々から想像力を飛ばして、可視化も言語化もできないような、人と人との間にあるものや、感情を描き出していたナガノさん。今回は、自分の意識の中へと深く潜っていって描かれた作品が多いように感じられます。それはきっと、見ている私たちのこころの奥底にもつながっている気がします。

絵を見ている皆さんを見ていると、ぐっと意識が集中していくのが感じられます。作家の描いた一本一本の線を辿っていくことは、ナガノさんが絵と向き合った時間を追体験しているようでもあり、自分自身の記憶の旅をしているようでもありました。

あるお客さんが、ナガノさんの作品は、“祈り”のようだと話してくれました。この揺れる日々の中でそれでも積み重なっていく、「きょう」。ナガノさんが展示に寄せたテキストにあるように、うれしいこともかなしいことも、積み重なっていつかきっと強い大地に、豊かな森になっていきますように。

このような状況の中でご来場いただきました皆さん、気にかけてくださった皆さん、そして「いま、出せるすべてを描き切れた」と渾身の作品群をつくってくださったナガノさん。本当にありがとうございました。

2020-06-13 | Posted in Past-ExComments Closed